2020年6月10日水曜日

新たな教育・人材育成事業

<ミャンマー人道支援事業の補足資料>

外国人を労働者として受入れ始めた日本、
私たちがやってきたこと

平成の終わりに日本の外国人就労を巡って法改正が進み、多くの指摘や課題を抱えたまま、新たな「特定技能」の在留資格が設けられました。外国人に人手不足の現場で活躍してもらおう、というビザです。この制度については、最後に述べます。


当団体は、ミャンマーの子ども達への物資配布を中心とした支援を行ってきました。彼らが支援だけに頼らず自立できる事を念頭に、経済的な自立と社会的貢献の両立ができる大人になってもらいたいと考え、教育支援や人の育成事業を始めるようになりました。

私たちの支援先では、貧困から教育の機会に恵まれてない子弟が多く、若者の多くが村に残るか、村を出てもまた戻ってきます。”よい事”だと思いたいのですが、「他に選択肢がなく仕方がなくて」という理由であれば残念なことです。

「このままここにいたら共倒れとなる、せめて子どもだけでも学ばせたい」と、遠くの寺子屋に預けた親の願いむなしく、世代を経ても貧困のまま苦しさを繰り返す、という現状があるのです。

もし、村を支える若者に広い見分や、しっかりと身についた知識や技術、そして村や町全体を幸せにしたいという意欲と行動力があれば、村に明るい将来をもたらすことができます。時間はかかりますが、これが今の教育支援・人育て事業を始めた理由でした。

長い時間をかけ努力を重ねて、やっと日本とミャンマーで活躍する若者が出てくるようになったかな、と思っている間に、「ミャンマー人技能実習生失踪、人権無視の過酷労働で訴え…」などの報道を耳にするたびにため息が出てしまいます。
そして、”単純労働”でも働ける!というビザができて…。

日本に何しに行くの?

ミャンマー人は日本をめざし、日本の企業は外国人雇用を推進する…。経済活動を中心に日本とミャンマーの利害が一致し、都合よく利用し合うだけの関係にならなければよいのですが…。

新たな在留資格の前に「技能実習制度」がありました。今もありますが、そもそもその制度は、日本が「途上国への国際協力」を目的に、途上国の若者が日本の企業内で実習することで技術移転をめざすという制度でした。

この趣旨は、私たちの想いに近く、私たちの研修にも導入できないか、と講習会にも足を運びましたが、資金や規模の要件を満たさず、質問しても相手にもされず断念しました。

しかし、数年の間にこの技能実習制度を巡って問題が続出。外国人が騙され、安月給でこき使われるといった報道が目立ちますが、一方で、外国人側が会社や日本人の足元を見てずるい事をやる、違法なことも平気、犯罪も犯してしまうという事も多々起きています。
あるいは、過剰な優遇で上げ膳据え膳になって勘違いさせてしまったり、同じ職場で働く日本人社員が不満になり、それがイジメにつながったりすることも…。

陽月堂(株)で働くミャンマー人が、ミャンマーの若者によく話をしていました。高いお金を借金して日本語学校に数か月行って、「介護なんかしたくない」と言いながら、受入れ企業が決まるのを待っている、日本に何しに行くの?恥かきにいくの?と。それはこういう理由があるからなのですね。

私たちがこれからできること

当団体の教育支援・人材育成の研修は、入門日本語を母国で学ぶ段階から対象を絞っています。更に積極的な学生には、日本語力アップや生活向上の意識付けを効果的に行うため、日本人と共同生活をし、学習や奉仕活動を共にする体験をしてもらいます。

語学の習得には、その国の文化や習慣、社会的な背景や国民性を生活の中で体感する事が一番の近道です。同時に、日本人との共同生活は、衛生的観念や環境整備への意識をシフトさせ、知識・知恵・工夫も自然に身につくことから、技能や活用能力を培うキャリア教育の場としては最適だと考えています。

こうした研修は、これまでに通算で言えば100名近くを日本に招いてきました。一度来て終わり、という人もいますが、来日の体験を活かして、村や孤児院、学校等で積極的に奉仕活動をしたり、私たちが現地で活動の際に現地スタッフとして参加する人も、特にミャンマーに多くいます。

短期的な研修では、ある程度の効果は見込めてもそれは限定的です。NPOの研修は日本滞在ビザの限度が3か月迄と限られており、特に語学や技術的な事に関しては短かすぎて、習得したことを活かせるようなレベルには至りません。一方で、途切らせることなく長期間学び続けた人は、素晴らしい成長と活躍を見せてくれています。

当団体の有志が立ち上げた陽月堂(株)の設立に関わり、現在は代表になって活動を続けているミャンマー人もいます。その人の故郷の村では、継続的な農産業事業を行えており、日本人との交流事業も毎年行っています。村では日本との繋がりを深く感じてくれる人も増えてきました。

こうした事例を踏まえ、強い意欲のある若者対象に、日本語留学の援助を3年前から始めました。今年、また1名が日本語留学を終え、陽月堂に入社する事ができました。このやり方は、年月を要し、本人の強い意思と相当の努力も必要、一人だけにかかる費用や時間、労力も必要です。
また、この段階まで頑張れる若者の数は少ないのですが、地道に努力を続ければ少しずつ変化に繋がってくるということを感じているところです。

自立支援の仕上げまで…

この技能実習制度の後に出来たのが「特定技能」という新たな在留資格…ビザです。技能実習制度は、国際協力だなんて言いながら実態は違う!だから、日本の労働力・人手不足を補う目的だと言っちゃおう!と。そして、日本人と同等の待遇をせよ、それに加えて生活に困らぬよう保護し支援せよ、ということのようです。

これで「平等」、ということなのでしょうか。技能実習制度の悪い例はたくさんあげられましたが、まともにやっている企業さんの立場ないですよね。また我々のように、その趣旨通りにやりたい!と願っても、力も金もなければ導入不可、というのも残念すぎます。

何か大切なものを置き忘れ、利害だけの関係になってしまうと社会はどうなるのか、日本人は日本人同士で既に学習してきたと思っていましたが…。
どうも、この「特定技能」制度の趣旨には賛同することができません。実際、導入している会社は少なく、労働者として安易に外国人を雇うことに抵抗がある会社はまだまだ多いと思います。

制度の趣旨に賛同できない=やらない、といった白か黒かではなく、正しくないことを少しでも食い止め、正しく活用するためにはどうするか…。そもそも自分達の目的は何か。そこを踏まえて、活用するにはどうするかを考えてみました。

この新たな「特定技能」の在留資格により、短期的にしか行えなかった体験学習を実務を通じ実践で長期的に積むことができる有用な制度と捉えてはどうかと。もちろん、本人にもしっかり説明と理由、背景を伝えることは大前提です。

これまで同様、厳しい環境下でも"本気で人々や地域、国に貢献できる自分"を目指して頑張れる若者を対象に学習機会を提供することは継続します。そして、次の目標を日本語留学として、現地法人や陽月堂と協働で援助。そこから適性を考え実務経験が積めるチャンスとして、新たな特定技能制度が活用できると考えています。

陽月堂は、技術や技能を身につけ、同時に日本から感謝されるようなミャンマー人が一人でも多く増えることを願い、外国人と企業の両方を支える役割を担う『登録支援機関』として法務省に登録しています。この制度の活用に欠かせない機関を担います。

また、陽月堂は、ミャンマー人技能実習生を雇用中の企業さんにも協力し、日本で働くミャンマーの若者のサポート事業も行い始めました。

近い将来、彼らが自立を果たし、支援物資の手渡しを基本に行ってきた当団体の支援事業が本当に不要になることを願い、同時に、それまで培われていく日本との深い絆が、我々日本人の次の世代に繋がっていくことを心から願って、この事業を引き続き推進していきたいと考えています。

互いの特性や得意なことを活かし合いながら、互いの国を尊重しあい、同じ仲間として協働することができてはじめて、これまでの自立人道支援が実を結んだと言えるのではないでしょうか。